「国際物理オリンピックに参加して 中塚 洋佑」リレー・エッセイ2-⑪

「国際物理オリンピックに参加して」

2012年エストニア大会
中塚 洋佑

僕にとって物理への興味のきっかけは、物語へのワクワクだった。
子供の頃、僕はファンタジー小説を読み漁っていた。指輪物語を読んだことはあるだろうか?あの世界では魔法によって出来事・物事が説明される。少年の頃の僕は、大いに物語の世界観にのめり込んだものだった。もう少し成長すると、今度は自分たちが今生きている世界はどういう原理で働いているのか、興味が出てきた。この宇宙がどのように始まったのか?今見ているモノは何で出来ているのか?どういう法則で物事が移り変わるのか?当時の僕は、小説の続きが気になるのと同じように、これらの謎に興味を掻き立てられていった。

高校生になる頃には、この宇宙はインフレーションなる急激な膨張から始まり、物質は素粒子という単位で構成され、4つの力が存在する、ということを一般向けの科学読み物から知った。けれどもそれは、読み物としての知識であり、少年の頃に読んだ小説の設定と変わらない、実感のないものだった。多くの一般向けの本では、数式を使わない直感的な説明が書いてある。けれども、どうしても数式を使わないと理解できない部分に関しては、そういうものとして受け入れるしかない論理の飛躍が度々出てくる。数学・物理の知識がないために、噛み砕いた説明の裏に潜む現象を理解できないことを歯がゆく思っていた。
そういう動機から数学・物理学を勉強し始めた僕は、物理チャレンジに参加し、そこで同じく物理に魅了された同年代の人々と出会った。優秀な同期たちとの交流で最も驚かされたのは、問題や現象を理解することに対する情熱の高さだった。教科書で理解が及ばない部分があると、計算し議論し徹底的に理解を追い求める姿勢は、忘れられないものとなった。彼らとは、卒業後も長い交流を持つようになる。

大学では、自分がかつて抱いた疑問の答えを知るため、素粒子物理で研究者を志すようになった。折しも、素粒子物理学ではHiggs粒子の発見とそれに続く超対称性理論の”未”発見という節目の時期であった。最先端の研究を理解するため勉強をすすめるうちに、かつて自分が抱いていた疑問にいくつもの理論が提案され、更に多くの問題点や未検証の予測があることを知った。物理学の、特に素粒子・宇宙論分野の面白さは、現象の解明がこの世界の仕組みの理解に繋がるところにあると思う。新規の理論それぞれが、既存の現象を説明するだけではなく、未知の現象を予測する可能性を秘めていることが魅力的に感じた。

大学院で研究を始めてからは、研究に抱いていた理想と現実の違いを知った。新規の理論を提案することは非常に難しく、またそれが観測で検証されるためには長い年月が必要になることもある。一握りの正解を除いて、ほとんどすべての理論が最終的には棄却されてしまう。しかしそれでも、自分で取り組む研究で計算がうまく行った時の、いま、世界で自分だけがこの現象を理解している、という感覚は一度味わうと忘れることは出来ない。
かつての自分が抱いていた疑問に、これからは自分で答えを見つけていくのだ。

(エストニアの街で)

【略歴】

出身地 滋賀県
出身高校 滋賀県立膳所高等学校 2013年卒業
大学 大阪大学(2013~2017)
大学院 東京大学大学院入学(2017~)
現職 東京大学理学系研究科物理学専攻宇宙線研究所 博士課程1年

 

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