「物理オリンピックに背中を押されて 高橋 拓豊」リレー・エッセイ2-⑱

物理オリンピックに背中を押されて

2015年インド大会
高橋 拓豊

 

物理学との出会いは中学生の時に読んだブルーバックスのマンガでした。一定のルールや法則に基づいて身近なものの動きを解き明かしていく様子が、幼い頃からジグソー、数独、RPGゲームなど種々のパズルを好んできた自分にはまるで高級なパズルのように見えて、心惹かれたことを覚えています。程なく始まった物理の授業はとても楽しかったのですが、当時は、深くのめり込んでいくまでの意欲は湧きませんでした。学校の試験で良い点を取れるだけで満足し、より深く勉強した先にそれ以上の喜びがあると想像できませんでした。また、学校の成績は良くとも全国や世界のレベルで勝負できる自信はなく、頑張っても報われないかもしれないという躊躇もありました。そんな私の背中を押してくれたのが物理オリンピックでした。

強く印象に残っているのは、日本大会の問題冊子表紙にある「問題は,一見難問にみえても,よく読むとわかるように,なっています」という注意書きです。物理オリンピックの問題はユニークで発展的な題材を扱ったものが多くあります。例えば、太陽の核融合反応をモデル化して表面温度を推定しよう、空気中の水滴による光散乱が虹を作る仕組みを考えよう、などです。見た目は確かに難解で投げ出してしまいたくなるのですが、問題文中のヒントに導かれながら辛抱強く考えていたらいつの間にか答えに辿り着いていて、「あれ、解けた?」と自分でも驚くことがよくありました。ただ遠くで輝いているだけの太陽や虹のようにつかみどころの無さそうな現象も、いくつかの仮定・ヒントをもとに論理を一歩一歩組み立てていけば、高校生で物理学初心者の自分でも理解でき(たつもりになれ)る。そのような物理学という学問の懐の深さに衝撃を受けました。難しい現象を理解できた感動は大きな喜びと自信になり、勉強を重ねてさらに不思議で深淵な現象にも挑戦してみたいと考えるようになりました。

物理学自体の楽しさだけでなく、物理学をきっかけとした出会いで自分の世界が拡がっていったことも大きな喜びでした。初めて参加した日本大会の本戦では、遠く憧れの存在だった国際大会の出場経験者と話すことができました。勉強法へのアドバイスを直接もらえたことが励みとなり、来年は少しでも先輩に追いつきたいと奮起しました。国際大会では、日本チームで5人中4番目の成績をとった自分が世界全体では200番目になってしまって世界の広さにショックを受けた一方で、楽しい思い出もたくさんできました。言葉の壁を超えて他国の代表たちとすぐに打ち解けられ、物理学から互いの国の文化まで様々な話をしたりトランプゲームなどに興じたりできたのです。さらに力を磨いて海外に出て、世界中の研究者たちと一緒に物理学に挑めたら楽しそうだと心が弾みました。

私はいま、イギリスのオックスフォード大学を拠点に、内部に面白い構造が隠れていそうな特殊な磁石についての研究をしています。計算が困難で理論だけではなかなか予測できない性質を、実験で直接測定して明らかにするため、苦心して一部屋サイズの大きな装置を完成させようしているところです。物理オリンピック当時と比べると、大学4年間で重ねた学びと「勉強」から「研究」へのシフトを経て、物理学への向き合い方は少なからず変化しました。しかし、一歩一歩研究を進めて難しい現象を理解していく楽しさ、物理学を通じて国内外の様々な人と出会う喜びは、今も変わることなく大切な原動力となっています。

日本大会の問題冊子の表紙

他国代表と深夜のポーカー対決。最左(右半身背側のみ)が筆者。

【略歴】

出身地 東京都
出身高校 小石川中等教育学校 2016年卒業
出身大学 東京大学理学部物理学科 2020年卒業
大学院 オックスフォード大学 Department of Physics 博士課程在学
職歴 マックスプランク研究所
Graduate Center for Quantum Materials, Student Fellow

 

【ご支援欄】
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