「科学の研究は【あせらず、しかしたゆまず】 水木 純一郎」リレー・エッセイ1-⑲

科学の研究は「あせらず、しかしたゆまず」

関西学院大学 研究創発センター長・特任教授
水木 純一郎

 私が科学的(今から思えば)なことに興味を持ち始めたのは小学生3年生の頃かも知れません。私の小学校では詩のコンクールがあり、3年生の時に連続して「しんだら」、次に「人間はどうしてできたか」という題名の詩が入選しました。どのような内容の詩であったかはほとんど覚えていませんが、その直後に母が「お前は理系やな」と言ったのを覚えています。その時は「理系」が何のことかは全く理解していませんでしたが「私は理系人間」と意識し始めたのは確かです。物理に興味を持った決定的出来事は、高校2年生の時に朝永振一郎先生が書かれた物理の内容でありながらエッセイのような「光子の裁判」に出会ったことです。文学的には「みつこ」と読んでも面白いし、物理的には「こうし」と読んだほうがいいのであろうとってもユニークな物語です。これは波動性と粒子性、観測したらその二重性が壊れる、という全く理解できない量子力学の不思議な世界が現実に存在し、その世界を取り扱うのが物理学だと知りました。迷わず大学では理学部の物理学科を専攻し、量子力学の概念で初めて出てくる粒子のスピンを知り、故に電子にもスピンが存在しそれがマクロな現実世界に現れている磁性に興味を持ちました。大学院では中性子線を使って磁性を研究する研究室に入り量子力学の言葉で語ってくる磁性体との会話に苦しみながらも研究を楽しみました。指導教官である石川義和先生から「君はCr合金(研究対象にしていた物質)の気持ちが分かるようになったから博士号をあげるよ」と言われたことが最大の喜びでした。これまで職場を転々としましたが、一貫して物質科学の研究分野で働かせてもらっています。

物理の一つの分野である物質科学は電子が主役です。数学的には三体問題は厳密には解けません。物質の中には電子が10²³個も存在しており、「三体」と比較すると天文学的な数字といってもいいでしょう。物質科学ではこれら電子の振る舞いを量子力学の言葉で理解しなければいけません(何らかの法則性を見つける)。不可能と思いますよね。でも物質科学としての学問分野が発展しています。不思議と思いませんか?私は、電子が多くなってくると電子集団特有の「自己組織化」が起こっていると理解しています。ということは、「物質を研究する」とは「電子集団を組織化している自然の原理を知る」ことだと考えています。自然はこんなに複雑な系に対しても人間が理解できるような法則性を提供してくれているのです。自然はすごいですね!これまで見つかっている法則性はほんの一部だと思います。こう考えると、物質科学にはまだまだ私たち人間が発見していない、想像だにしないとんでもない現象が隠されていたり、組織化している力を知ることによりそれを制御して全く新しい機能を持った物質を創製できる可能性を秘めています。能力溢れる若い皆さんの活躍に大いに期待するところです。

私は私立の中・高・大一貫校で学びました。スクール・モットーは”Mastery for Service”(奉仕のための練達)です。中学部長の先生(校長にあたる)から「どの分野でもいいから選んだ道の一流になりなさい。そして体も鍛えなさい。そうでないと社会に役立つ人間にはなれません。力ない医者は病人を助けることができません。溺れている人を助けたくとも泳げないと助けることができません。」と教えられました。大学院で仙台に行くことを報告するために尊敬する高等部の日本史のS先生のご自宅に伺ったとき、これを読みなさい、と井上健著「量子力学」の本をいただきました。帰って本をめくっていると、「あせらず、しかしたゆまず」と先生自筆のしおりが挟まれていました。私はこれらの言葉を忘れずに物質科学の研究を続けてきました。

最近、豊田長康著「科学立国の危機-失速する日本の研究力-」を読みました。ここには様々なデータに基づき統計学的分析結果を紹介しています。その中で日本を含むOECD加盟国のGDPと博士後期課程修了者数が明らかに正の相関があることを示しています。皆さんには大学院博士後期課程まで進学していただき、日本が再び科学立国となり持続可能な社会実現への牽引者となることを大いに期待しています。

【略歴】

出身地 兵庫県
出身高校 関西学院高等部
大学院 東北大学大学院理学研究科物理学専攻
学位 東北大学理学博士
主な職歴等 日本学術振興会奨励研究員、
McMaster Univ. Post Doc.(カナダ)
Ames Lab. / Iowa State Univ. Research Associate(アメリカ)
NEC基礎研究所 主管研究員
日本原子力研究所(後に日本原子力研究開発機構) 室長・センター長・副部門長
関西学院大学理工学部 教授・学部長
この間兼務として、 東京大学先端科学技術研究センター客員助教授
東北大学連携大学院理学研究科教授
姫路工業大学(後、兵庫県立大学)連携大学院理学研究科教授
岡山大学連携大学院自然科学研究科教授
関西学院大学連携大学院理工学研究科教授
その他 放射光学会(第16期)会長
SPring-8ユーザー協同体(第4期)会長

 

【ご支援欄】
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